高齢者のワクチン|ライフステージが進むことで生まれる体の変化と推奨されるワクチンについて説明
年齢とともに感染症への抵抗力が低下し重症化のリスクが高まります。ワクチン接種はご自身だけでなく家族や周囲の人を守るための大切な予防策です。本記事では高齢者に推奨されるワクチンの種類や接種時期について解説します。
目次
なぜ高齢者にワクチン接種が推奨されるのか?

まず、私たちの体に備わっている免疫の仕組みについて簡単に説明します。
免疫は大きく自然免疫と獲得免疫に分けられます。自然免疫は、人の体に侵入した病原体をあまり区別せずに自身に取り込むなどの方法で病原体を排除していきます。
一方、獲得免疫は、病原体に感染した細胞を直接攻撃したり、他の免疫細胞に指令を送ることで間接的に攻撃したり、抗体(こうたい)を産生するなどの機能があります。これら自然免疫と獲得免疫の両方の働きによって、人の体は病原体から守られています。しかし年齢を重ねると、体の機能が衰えるのと同様にこれらの免疫機能も低下していきます。免疫機能が低下すると感染症にかかりやすくなり、重症化のリスクも高くなります。感染症そのものや重症化を防ぐためにも、推奨されているワクチンについて理解し、接種を検討することがすすめられます1)。
高齢者が対象の定期接種(B類疾患)とは?

予防接種には定期接種と任意接種の2種類があり、定期接種は「予防接種法」と呼ばれる法律に基づくもの、任意接種は「予防接種法」で規定されておらず希望により受けるものです。定期接種のワクチンは、A類疾病とB類疾病に分類され、A類疾病は主に感染症の流行を抑え、加えて重い病気を予防することを目的としており、B類疾病は主に個人の感染予防や重症化予防に重点をおくものです。
高齢者が対象となっている定期接種はB類疾病の予防接種です。B類疾病の予防接種は、費用の一部が公費で負担される場合があります。
肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌感染症は、肺炎球菌という細菌により引き起こされる病気です。咳やくしゃみなどの飛沫(ひまつ)により感染します。
日本人の約3~5%の高齢者では鼻や喉の奥に菌が常在しているとされています。
保菌者のすべてが発症するわけではなく、免疫力や抵抗力の低下、粘膜バリアの損傷などにより菌が体内に侵入すると発症します。発症すると、気管支炎、肺炎、敗血症などの重い病気を起こすことがあります。
重症な肺炎などにかかることを予防するためのワクチンが開発されており、65歳の方と60~64歳で対象となる方(※)に、1回接種します。
※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
インフルエンザワクチン
インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる病気です。日本では、例年12~3月の冬に流行します。感染経路は、くしゃみや咳の飛沫(ひまつ)による感染、または手などを介した接触感染です。
38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの特徴的な症状とあわせて、鼻水やのどの痛み、咳などの一般的な風邪の症状もみられます。基礎疾患のある方や高齢の方では、重い肺炎などの合併症が現れる可能性があります。
以下に該当する方は、インフルエンザワクチンの定期接種の対象となります。毎年、秋冬に1回の接種を受けられます。
- 65歳以上の方
- 60~64歳で対象となる方(※)
※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方。
新型コロナワクチン
新型コロナウイルスにより引き起こされる病気です。感染経路は、くしゃみや咳の飛沫(ひまつ)による感染、または手などを介した接触感染です。
感染すると、発熱やのどの痛み、咳などの症状がみられます。ほとんどの方は時間とともに症状が改善しますが、感染者の約6%に疲労感や倦怠感、関節痛、筋肉痛、嗅覚障害、味覚障害、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などの罹患後症状が発生したという報告があります。また、高齢者や基礎疾患のある方が感染すると、重症化するリスクが高まります。
重症者を減らすことを目的として定期接種が実施されています。以下に該当する方は、新型コロナワクチンの定期接種の対象となります。毎年秋冬に1回接種を受けられます。
- 65歳以上の方
- 60~64歳で対象となる方(※)
※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は、神経に沿って、典型的には体の左右どちらかに帯状に、時に痛みを伴う水ぶくれが出現する病気です。過去に水痘(みずぼうそう)にかかった時に、体の中に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することにより発症します。皮膚の症状が治った後も神経痛が残り、日常生活に支障をきたすこともあります。70歳代で発症する方が最も多い病気です。
帯状疱疹やその合併症を予防するワクチンがあり、以下に該当する方が定期接種の対象です。
- その年度に65歳を迎える(迎えた)方
- 60~64歳で対象となる方(※1)
- 2025年度から2029年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となる方も対象となります。
※1:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
※2:100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となります。
ワクチンには2種類あり、いずれか1種類を接種します。
- 生ワクチン
皮下に1回接種します。
- 組換えワクチン
2か月以上の間隔をあけて2回筋肉内に接種します。病気や治療により、免疫の機能が低下した、または低下する可能性があり、医師が早期の接種が必要と判断した場合、接種間隔を1か月まで短縮できます。
| 生ワクチン | 組換えワクチン | |
| 接種方法 | 皮下接種 | 筋肉内接種 |
| 接種回数 | 1回 | 2か月以上の間隔をあけて2回 |
接種を検討したい任意接種ワクチン

任意接種のワクチンは希望により接種するもので、定期接種とは異なり費用は基本的に全額自己負担となります。お住まいの地域によっては助成される場合がありますので、お住まいの自治体にご確認ください。なお、定期接種に定められている予防接種を対象年齢以外で受ける場合も任意接種に該当します。
RSウイルスワクチン
RSウイルスへの感染による呼吸器の感染症です。飛沫(ひまつ)感染と接触感染により感染します。
大人が感染すると、発熱や鼻水など風邪のような症状のみで自然と軽快する場合が多いですが、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患のある高齢者では重症化するリスクがあることが報告されており注意が必要です。
2024年1月から高齢者を対象としてワクチンの使用が任意接種として可能になりました。2種類のワクチンがあり、1つは60歳以上の方、または50歳以上のRSウイルスによる感染症が重症化するリスクが高いと考えられる方が対象で、もう1つは60歳以上の方と妊婦さんが対象で、高齢者は希望したタイミングでの接種が可能です。
破傷風トキソイド
土の中などにいる破傷風菌が、けがなどの傷口から体内に入ることで発症する病気です。人から人にはうつりません。
破傷風菌が産生する毒素がさまざまな神経に作用して、口が開きづらい、あごが疲れる、歩行障害、排尿・排便障害などを起こし、最終的に全身の筋肉が固くなって体を弓のように反り返らせたり、息ができなくなったりすることもあります。
破傷風トキソイドを含有するワクチンが定期接種となったのは、1968年からです。2011年の東日本大震災、2018年の中国地方の大豪雨において破傷風の患者が被災地から報告されましたが、そのほとんどが高齢者でした。1968年以前に生まれた方は、定期接種では破傷風トキソイドを含むワクチンの接種を受けていないため、任意接種として破傷風トキソイドの接種を検討することがすすめられます2)。
また、日本では、成人でも接種可能な破傷風トキソイドを含むワクチンとして、DPTワクチン(ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン)も承認されています。
ワクチンの接種についてはかかりつけ医へ相談しましょう

ワクチン接種の可否については、予防接種を受ける人の健康状態や体質などを確認した上で医師が判断します。持病や服薬状況、アレルギーの有無などを正確に医師に伝えるようにしましょう。また、過去の接種歴によって接種スケジュールが異なる場合もありますので、接種歴を確認することも重要です。
参考文献
- 1)厚生労働省 よくある質問 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kihonteki_keikaku/index_00001.html
- 2)一般社団法人日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集2025 P125、143 http://www.wakutin.or.jp/medical/pdf/qa_2025.pdf